2010年度講習会 劇作優秀作品(2点)
(1)「箱庭」 工芸高校3年 山本未来(みく)
淡いいろどりの小さな部屋、その中に無彩色の階段が一つ、鍵のついた扉も一つ。
少年 開かない・・・
一人の少年が扉をひくが開かない。あきらめて離れると扉から女が入ってくる。
開いた扉から出て行こうとするが、女に止められる。扉が閉まる。
少年 退いて欲しいんだけど。
女性 だめよ。何回言わせるの。
少年 あけてくれるまで。
女性 だからだめよ。あなたはここにいれば、何も心配しなくていいんだから。
少年 ・・・
女性 ほら、夕食よ。部屋片づけて食べて。
少年 またカレ−!・・・
女性 何?いやなの?
少年 別に、好きな方。
少年、部屋を片づけだす。終わると食べ始める。
少年 部屋、狭くなったよね。
女性 そう?
少年 うん。
女性 気のせいじゃないの? あ、きっと本の量がおおいのよ。片づけさえすれば、狭くなんかないわ。
少年 無理だよ、まだたくさん読みたいものがあるのに、これ以上場所なんか・・
女性 あるわよ。まだ部屋におけるでしょ?
少年 ないって、じゃあ別の場所貸して・・
女性 (冷たく)だめよ、まだあるでしょ?
少年 ・・・
女性 あなたはここにいればいいの。そうすれば安全よ。ほしいものがあげれるのよ。
少年 ・・無理。
女性 外はあなたにとって危険なの。
少年 ・・でも無理だって。その本は、ここにはいりきらない。
女性 何も起こらないから、安心でしょう?
少年 違う。
女性 ずっとここにいれば楽しく過ごせる。
少年 僕はここにいられなくなる。この部屋にさえ入れなくなる。
女性 大丈夫。私がいさせてあげるから。ほら、夕食食べましょう?
少年 (食べる)からっ!
女性 おいしい? スパイス色。入れてみたの。
少年 ・・うん。おいしいよ。でも少し刺激が弱いかな。
女性 え? 足りない? この味好きじゃなかったの?
少年 今の僕には弱すぎる。ねぇ、扉をあけて。自分で作ってくる。
女性 ・・だめよ。危ないから私が!
少年 だめだよ。ぼくはもう子どもじゃないんだから。
女性 私は、あなたのためを思って・・それで・・こんなすてきな部屋まで作って
・・守ってきたのに・・
少年 違う。ここは部屋じゃない。ただのカゴだよ。ほら見て、おかあさん。
扉が少し開く。カゴの格子がうかびあがり、雑踏が聞こえる。外の音。
−幕−
(コメント)
○親の過保護、そこから飛び出したい少年の気持ちが描かれています。最初親子にみえないように工夫し、
いくつかのエピソ−ド、やりとりを増やした上で「かあさん」ということばにつなげていけばいいと
思いますが、ラストの照明・装置は作り方次第でいい印象を残すことができます。「箱庭」という題名よ
りはたとえば、「鳥籠(かご)」でもいいのでは。
○この短いお話の中に、世界観がしっかりとあり、読むと様々なことが想像できる作品だと思います。
なぜ出てはいけないか、はよく伝わりますがなぜ出たいのかをもう少しふくらませてはどうでしょう。
もうつらいと感じなくなったのはなぜなのか、どんな葛藤があるのでしょうか。
○長さの割にはよくできていると思います。ちょっと箱庭というかんじではないですね。
(2)「虎になりかけて」 茨木高校 2年 岩田健
圭吾がすわっている。冬雪が登場。
冬雪 あれ?圭吾くん、きてくれたんだ。ごめんね、今日は仕事が長引いちゃって。
圭吾 いえいえ、こちらも勝手に入ってきてすみません。
冬雪 いいんだよ。いつものことじゃないか。今日は何しに?
圭吾 う−ん、何となくひまだったんで・・・。
冬雪、本を取る。
冬雪 そうかい。俺は暇なときは本を読むんだ。一緒に読むかい?
圭吾 喜んで。なぜ読書が好きなんですか?
冬雪 本の中にはその人の考え方、生き方があふれているからね。一つの人生の中で何人分もの
経験ができる。
圭吾 では、今日はどんな人の人生を?
冬雪 僕の友達の本だよ。君ももうすぐ大学を卒業だろう。この人の本は、社会に出て今まさに
夢を追おうとしてる君にぴったりなんだ。
圭吾 へえ。それはぜひとも読みたいです。
正志、登場。舞台のはしへ。
冬雪 じゃあ読むね。
正志 明日美は24歳の建築士。ついになりたかった職業に就けてからはや半年。仕事は全くなく
自分に嫌気がさしてきていた。
明日美、登場。
明日美 あ−あ、建築学校に居たときは、成績もトップで将来有望だった私が今はこの有様かあ。
何で私だけこんなんだろう。いや、じつはみんなそうなのかな。う−ん、友達のことを
考えてたら、声が聞きたくなっちゃった。フミに電話しよっと。
明日美、電話をとりにいく。
正志 富美子は明日美の高校時代からの親友で、今でも毎年遠く離れた大阪から東京へ
遊びに来るほどである。
富美子登場、電話に出る。
富美子 もしもし桂木です。
明日美 あっフミ!私!
富美子 あれ?アスミ?ああ久しぶりだね声聞くの!元気してた?
正志 二人の話ははずんだ。そのうち、今それぞれ何をしているかの話になった。
明日美 私?私はね・・建築士。
富美子
明日美 私?私はね・・建築士。
富美子 え!あのあとしっかりなれたんだ!おめでと−。アスミずっと夢だったもんね。
もうかってる?
明日美 う、うん、まあね
正志 その答えはやはり曖昧であった。
明日美 フ、フミは?
富美子 あたしはね、なんとね、カレ−屋さん!
明日美 ええっ?あんなに料理へただったのに?
富美子 それが三年かけてみっちり修業したのよ!
明日美 全然そんなこと言ってなかったじゃん。
富美子 自分でもなれるか不安だったから、内緒にしといたの。サプライズにもなったでしょ?
明日美 うん、すごいおどろいた。てか食べたいなあ、そのカレ−。どこまで上達したのか。
富美子 じゃあ今年は私の家に遊びに来れば?ずっと私が行くばっかりで申しわけなかったんだよね。
明日美 うん、いくいく!
正志 宿泊の予定はとんとん拍子に決まった。そして、あっという間にその日が来た。
冬雪 っていうか-!
圭吾 うわぁ!どうしたんですか?
冬雪 喉(のど)が渇いた。
圭吾 なんだそんなことですか。先が気になるからはやく水飲んでください。
冬雪、水を取りに行きながら
冬雪 いやー、いつも一人で読むからね、声に出して声に出して読むのは慣れてないんだ。
冬雪、水を飲む
圭吾 オ−ケストラ奏者がそんなんじゃだめでしょう、演奏中にそうなったらどうするんですか?
冬雪 まあね。
圭吾 ・・・この作者の山本正志さんとは冬雪さんはどんな感じで友達だったんですか?
冬雪 うん、高校の同級生。ちょうど明日美と冨美子みたいな。
圭吾 なるほど。
冬雪 じゃあ続きを。
正志 大阪はうわさ通りとても賑やかな所であった。冨美子の店は、その中でも特に賑やかな
下町にあった。
明日美、席に座って冨美子の料理を待つ。
明日美 なんで急に3年前、カレ-屋になろうと思ったの。
冨美子 いや、急にじゃなくって本当はずっとなりたかったんだ。小学校の時、給食のおばちゃんと
親しくて、給食はとてもおいしくて、ずっとあこがれてたんだ。
明日美 でも、料理は下手だった!
冨美子 うん、だから何度も挫折しそうになって自分に本当にできるかなって思った。私は明日美と違って
才能もなくて、ただなりたいだけだったから。
明日美 本当に私って才能・・あるのかな。
冨美子 あるよー。だって言ってたじゃん。いつも成績トップだって。え?あれ嘘なの?
明日美 いや、本当だけど・・
明日美 じゃあちょっとの努力じゃん。・・あっちょっとじゃないのか。※1アインシュタインのおじさんも
言ってたし。
明日美 ちょっとへこむこと言わないでよ。
富美子 ま、それなりにもうかってるんなら長続きするだろうし、がんばって。
明日美 ・・うん。
正志 それなりにももうかっていない。長続きはしないことは明白であった。
富美子 はい!できたよ!!
明日美 あ、ありがと!!代金は?
富美子 い−のい−の。毎年ずっとそっちの家ばっか押しかけてたお礼。
明日美 やった!じゃあ、いただきま−す!
明日美、カレ−を食べる。
富美子 ・・どう?・・おいしい?
明日美 ・・お、おいし!!がんばったんだね、フミは!
富美子 よかった!!ゆっくり食べてね。
正志 富美子のカレ−はとてつもなくおいしかった。明日美は、富美子の成功をうれしく思うと同時に、
ひそかに妬んだ。明日美はその自分をすぐに振り払った。翌日はたっぷりと大阪を観光した。
そして、三食すべて富美子のカレ−を食べた。あきなかった。食べれば食べるほど、明日美は
富美子を妬ましく思った。明日美はそれを一生懸命に振り払った。そしてすぐに東京へ帰る日がきた。
明日美 カレ−すごくおいしかった。また食べさせてね。
富美子 うん。もう帰らないといけないの。
明日美 ゴメンね。仕事が忙しいから。
正志 うそであった。むろん仕事は忙しくない。しかし一番のうそは、おいしいがどんどん富美子を妬んでし
まうカレ−をもう食べたくなかったことであった。
冬雪 どろっていいあ−!
圭吾 またですか!激しくなってるし!
冬雪 そうだ。さっきより激しく渇いたのだ。水ぅ!!
圭吾 じゃあ、飲んできてくださいよ!気になるところで止めるんだから。
冬雪 スマンスマン。
圭吾 ・・正志さんは、とてもいい文章をかいていらしゃいますね。文豪版富美子です。
冬雪 ・・・。
圭吾 どうしたんですか?
冬雪 おまえはそう思うか?
圭吾 え?まあ?
冬雪 自分の幸福な身の上話をわざわざ書く奴なんていないさ。あいつは・・明日美だった。
圭吾 え?
冬雪 あいつ、オレに黙ってこんな本を書きやがって・・この本を読んではじめて知ったんだ・・
オレはあいつを苦しめてたって。あいちはオレを妬んでたって!
圭吾 冬雪さん・・・。
冬雪 オレは高校で自分でも驚くほど突然音楽の道をめざした。はっきり言って出来心だった。
もちろん経験はなく、すぐに挫折した。その時、あいつはオレを励ましてくれた。
だからオレも最初は!オレが明日美であいつが富美子だと思ったよ・・。あいつ自身言ってたよ。
あいつはずっと昔から文豪を目指していて、『山月記』が大好きだった。その中で自分の才能の有無に
苦しみ、虎になった李徴はオレで、あいつは成功した級友の袁参みたいだなって二人でからかいあって
言ってたよ!それが・・そんな意味の皮肉だったなんて・・。
圭吾 明日美は・・正志さんはどうなったんですか?
冬雪 オレはいろんな・・不思議なことにも励まされ努力を積み、だんだん音楽の腕が上がっていった。
そして、オ−ケストラ奏者としてデビュ−してすぐのこと・・この本が発表されたんだ・・・。
そして、その本は評価され、一躍正志は有名になった。
圭吾 じゃあ、明日美と正志さんは成功した人ですね!?
冬雪 ああ・・。明日美はあの後、努力して成功する。でも・・・。
圭吾 ・・まさか・・
冬雪 あいつは虎になりたくはないなと笑って言ってた。だからって!虎になりかけたからって・・
自分の命を絶つなんて間違った選択だった!
圭吾 そんな・・正志さんは・・
冬雪 ああ。あいつの本が有名になったのは死後のことだ。あいつがもう少し頑張って生きてりゃ二人で
笑いあえたのに・・。作家達はいつもそうだ。宮沢賢治も※2太宰治も・・『山月記』の作者、中島敦
もそうだ!・・みんな、作品が評価されたのは没後のことだ・・。
圭吾 確かに・・そうですね。
冬雪 ・・ごめんな。こんな重い話読んじゃって。でも努力を積めば、人は必ず成功するんだよ。正志と
李徴は努力がたりなかったけど、明日美は成功したんだ。だからきっと大丈夫。それを・・つたえたか
ったんだ。
圭吾 ・・はい。
冬雪 あと・・その成功が時として近い人を傷つけるかもしれないってことも頭のすみっこにおいておいて。
じゃあ、今日はもうおそいから家に帰りなさい。そして、君も努力を積んで、夢を叶えなさい。
圭吾 わかりました。では!・・今日はありがとうございました!
圭吾、走り去る。冬雪、誰かに語るように
冬雪 なあ、似ているよなあ。圭吾君は。夢をひたむきに追ってたあのころの俺たちに・・・。
―完―
(コメント)
※1 アインシュタインでなく、エジソンのことばから。
※2 太宰治は、梶井基次郎(『檸檬(レモン)』の作者)がふさわしい。
○タイトルはおもしろいですね。内容とのからみも意表をついていました。大事なことが長ぜりふで説明され
すぎてしまって、短編小説のようになってしまっているのが残念。人物の対立をもっと表面化させるとより
おもしろくなったと思います。
○本の中の世界を劇として表す構造がおもしろいです。本の内と外の世界の絡み合いがたくみです。
○とても読ませる文章です。劇中劇の構造もいい。ラストがちょっと無駄かな?「帰ります」みたいな会話。
これいらんよね。